「大漁旗」 その1
築地では戦後、各地の漁港との取引が活発になり、中でも「まぐろ漁」の基地である釜石、気仙沼、三崎、清水、高知、串木野などの港には続々と新造船の竣工ラッシュで沢山の大漁旗が贈られていました。
小生の店では「大漁旗」も扱っていますので、築地の卸会社の大物課(マグロを扱う部署)から「大漁旗」の注文が良くありました。
マグロ船の大きさによって「大漁旗」の大きさもある程度決まってきます。
生地幅の関係で、70センチの幅が「大幅」、90センチの幅が「ヤール幅」と言って、それを何枚繋ぐかによって横幅も決まってきます。旗の場合、タテ2に対して、ヨコ3の比率で作るのが一般的です。国旗も同じです。
400トンを超えるクラスの大型船の場合、一番大きいサイズで、タテがヤール3幅(約2,7メートル)×ヨコ(約4メートル)の物になります。
多くの「大漁旗」は、色々なお目出度い柄を派手な色で入れるのが普通ですが、「築地の卸会社」ではシンプルな物が好まれました。今でも同じです。
柄は暴れ熨斗(あばれのし)を左側に入れて、「祝 大漁」と上に書き、船名を中央に横書きで大きく書き、裾の波柄の中に「贈り主」の名前を入れます。
地味に思われますが、沢山の派手な大漁旗が船に付けられてたなびく中にあって、シンプルな柄の物は、却って目立ち、贈り主も満足するという訳です。
大漁旗の産地は千葉の銚子をはじめ、全国で染められていますが、各地の染物屋は、それぞれ腕を競って好い物を作ってきました。
銚子周辺の大漁旗は普通の染め方とは違って、砂を糊の上に撒くのが特徴でした。
普通の染めでは、糊を早く乾かす為に、おが屑を撒くのですが、地域の特徴で、浜が近い為にこのような工程が成り立っていたのでしょう。
世界的なマグロの漁獲制限と共に新造船も作られなくなり、大きいサイズの大漁旗は、今では時々改修の船に贈られる程度になりましたが、小型船や釣り船などの需要はまだあります。
結婚の祝いや子供の誕生、初節句のお祝い、退職の記念などの新しい用途にも使われるようになっています。
スーパーや魚の量販店のディスプレーにも多く使われています。
しかし「大漁旗」は船に掲げられて初めて輝く物なので、これからも船にはためくシ-ンに数多く出会えたら嬉しいと思います。
ただ、最近の物は、パソコンの文字フォントを利用して作った物も見かけますので、あまり好ましいとは思いません。漫画チックなものや、カワイイ鯛の絵などは、本来の「板子一枚、下は地獄!」と言われるように、命をかけて漁をしてきた漁師たちに失礼な気がします。
やはり、大漁旗はどんなものであれ、手書きの文字が一番です!。
「大漁旗」については、また書きたいと思います。
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