「検番 /見番」から思う事
もう30年ほど前に、今は無き「柳橋見番」に行った事があります。お座敷ではありません。
二階に上がると畳敷きの稽古場がありました。芸者衆ばかりでなく、日舞の稽古のために貸し出されていた記憶があります。
それは祖母の知り合いの藤間流の師匠が踊りの稽古をそこですることになり、行く機会がありました。日舞には興味が無かったので、当時は「見番ってなに??」でしたので、今思うと、もっとよく見ておけばよかったと思います。
江戸時代から続く花街の「柳橋」は幕末から明治期にかけて、新興の新橋と並ぶ二大花柳界のひとつでした。
戦後には大繁盛していたそうですが、娯楽の多様化や、高度成長期の副産物である、川の汚染によるニオイやカミソリ堤防なども影響して、平成11年(1999)に「柳橋」の永い歴史に幕を閉じたという事です。
神田川には小振りの「永代橋」の様な、緑の「柳橋」が今も架かっていて、橋のたもとには「柳」が植えられており、佃煮の「小松屋」さんが今も営業して、当時の風情と情緒を伝えております。
対して、「新橋」と言うと新橋駅近辺で商売をしていたと思いがちですが、そうではなく銀座8丁目の博品館の斜め前に「新橋」と言う本当の「橋」が昔架かっていて、料理屋や船宿が多く立ち並んでいたそうです。
「芸者」たちは、そのすぐそばにある、銀座8丁目あたりにあった「能」の金春流の敷地を借りて稽古をしていた所から、金春(こんぱる)芸者とも呼ばれていて、それが「新橋芸者」の興りだそうです。
中心は銀座8丁目の中央通り(銀座通り)から2本西側に入った道筋あたりで、最近中央区で「見番通り」と命名された所の付近だそうです。
近くに「新橋見番」がビルの中で営業しています。
幕末頃から明治にかけて薩長土肥の志士たちがひいきにしていたようで、当然、新政府の要人も大半がそのままのお客となった訳ですから、繁栄を極めたのは当然だったでしょう。
しかし、「柳橋芸者」に対して、「新橋芸者」はあくまでも新興勢力でしたので、家元クラスの師匠に稽古を付けてもらって「本物の芸」を磨き、その価値を高めていったようです。
その発表の場として、「新橋演舞場」ができ、「東をどり」が始められました。
「新橋芸者」は、少し薄緑掛った浅黄色(水色に近い色)の着物を好んで着ていた所から「新橋色」という色の名前まで今に伝承されております。
彼女たちのひいき筋は、政治家や企業の重役たちばかりではなく、「魚がし」の旦那達も、日舞や小唄、清元を習ったりして、”玄人はだし”の人もいたという事を聞いております。
以前にも書きましたが、自宅に稽古場まで作ってしまった仲卸の旦那もいましたので、その繁華な時代が感じられます。
銀座と日本橋には「くらま会」という商店や会社の社長クラスの人たちのいわば「余芸発表会」みたいな会があり、直前には彼女たちに猛稽古をつけてもらっていたようです。
土地の歴史とそこに生きたダイナミックな人の歴史が身近に感じられます。
そんな時代を経験してみたかったですね。
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