「千社額」 (せんしゃがく)の はなし
もともと、江戸時代中期以降 「団体」や「講」で神社仏閣に何か奉納品を納めてその志納者や講員の名前を刻んだものが「千社額」の興りと思われます。
しかし、千社額ばかりとは限らず石碑などにも名前を刻んだりします。
奉納の玉垣に個々の名前を彫刻してあります。しかし、、、
このようにして、奉納品の詳細を残すために石碑を建てましたが 「千社額」の場合、奉納品に個々の名前を入れられない物だったりするので、別途製作して奉納する訳です。
成田山新勝寺に行くと、光明堂のすぐそばの「額堂」にたいへん古い「千社額」や「奉納額」が沢山飾られれており、有名な「ビラ辰」が原稿を書いた物も残っております。
現在の様な「魚屋」、「料理屋」、「寿司屋」、「魚量販店」などに掲げてある「千社額」は第二次大戦後、市場の統制解除後に「築地」から始まったスタイルだと思われます。
それまでは大入り額(鶴亀や宝船の絵の書いてある縦長の額縁)やケヤキなどの一枚板に贈り先の屋号と贈り主の屋号を彫刻するいわゆる板看板(いたかんばん)が主流でした。
昭和30年前後の築地には地方からも買出し人が大勢つめかけていましたので、開店する店に何か贈る時に、「講」でよく奉納していた「千社額」を贈ろうと考えられたのでしょう。
魚河岸の旦那衆の「講」も盛んに行われていた時代でしたので、合点が行く話です。
たとえば、○○鮮魚店が開店となると、そこと直接取引のある仲買の店主が先達(せんだつ)となり、同じ業界の仲間に声をかけてくれる訳なので、取引が無くてもある程度の大きさの「千社額」を贈れたのです。ですから全部「魚河岸マーク」の「千社額」がある訳です。
鮮魚店に買いに来るお客さんにも「魚河岸」とこんなに取引があると言う様にハッタリがきくわけですから一石二鳥の宣伝効果があったのでしょう。 今では貴重品ですが。
当時は魚河岸がとても景気の良い頃でしたので、業界の中で「代金」も付き合ってくれていました。今では全く考えられない事ですが、、、。
そして、「千社額」を贈られた店主と先達の主人とで付き合ってくれた「築地の仲間」の所へ出向き、その「千社額」の写真とお酒や名入れの湯呑み、手拭や記念品などを配って挨拶回りをしておりました。勿論、その時に「代金」も回収してくれました。
小生の店も「千社額」を作っておりますので、その辺の事情は聞いておりましたが、大変だったのは、「屋号」を並べる順番でした。
たとえば、「いろは順」に並べると、「あそこは○○屋からののれん分けだから上手(かみて)に並べちゃだめだ。」など小札を打ち付ける順番を決めるのにも先達の旦那がちゃんとわだかまりの無いように、気を配っておりました。
先達の屋号は一番下手(しもて)に入れる事が多かったようです。自分をへりくだってそうしたのでしょう。
(上手は舞台でも言いますが向かって右側のこと、下手(しもて)は左側のことです。)
ですから、今でもその当時の「千社額」を飾られているお店の方々は、当時の経緯に思いを馳せると、いかに良い時代の物だったかお分かり頂けるでしょう。
今では、「千社額」の新規製作は勿論、洗いや金箔の押し直しなどの修理は承っておりますが、魚河岸マークばかりの新品の「千社額」はここ何年も作っておりません。「講」も数少なくなっており、この当時の話もだんだん、語り草になってしまいますね。
神社仏閣へ出掛けられたら往時に想いを巡らせて「魚河岸」奉納の物を探されては如何でしょうか。
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